一流の人は 威厳がある

神奈川県の大磯町、相模湾を見下ろす高台の邸宅庭に、ある人物の銅像が立っています。 袴姿に右手にステッキをもって相模湾とその先に広がる太平洋を見ているその銅像の主は、吉田茂。

吉田茂は大正末から昭和にかけて活躍した官僚・政治家です。彼の名は歴史教科書ではおなじみですね。戦前は外務次官や駐英大使などの要職を歴任。戦後はサンフランシスコ講和条約の締結をはじめ日本の復興につくし、平和にして豊かないまの日本の土台を築きあげた人です。

戦後の日本が、マッカーサー率いるGHQの支配下にあるなかで、国の威信をかけた真剣勝負の日々を過ごす吉田茂を映した写真の中に、着物姿で葉巻を手にしてくつろぐ姿のものがあります。

吉田茂は着物を好み、公私ともによく着ていたといいます。

羽織袴に白足袋がトレードマークで、その姿に当時のマスコミは「白タビ宰相」と

評してやまなかったそうですが、これはやっかみ半分、敬意半分をこめてのことだったのでしょう。

白足袋は、第一礼装(黒紋付羽織袴)で身に着ける最も格の高い足袋です。普通の

感覚では男性の場合、普段着は黒などの色足袋です。でも吉田茂の場合は白足袋を普段履きにしていました。日常が第一礼装なのです。

また、これは最高に贅沢なことでもあるのです。白足袋は汚れやすいし、それに汚れた足袋で人前に出るのは失礼にあたるので、普段着で白足袋を使うとなると日に何度も履き替えなければなりません。

それだけ気を使う白足袋です。これだけでも白足袋を普段着としていた吉田茂の気持ちの根底にあるものが、少しだけですが想像できる気がします。

戦後の混沌とした混乱の時期にあって、日本のリーダーとして毅然とマッカーサーと対峙するには、想像もつかないほどの胆力がいったに違いありません。

そして日本人としての誇りと尊厳。

「礼装の白足袋で常に自分を律し、肝をすえてことに望む」

吉田茂にとっての白足袋には、こんな意味が込められていたのではないでしょうか。

KIMONOYA EIZI

「一流の人はなぜ着物を着こなすのか」を現代書林社より出版した著者のブログ

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